第750話 銀座に恋の物語
2021/11/15
~ 小松庵銀座店の森の時間より ~
☆室町の孫、江戸の子
江戸蕎麦は都市文化の一つである。
なぜかというと、「江戸蕎麦」とは、大都市江戸で始まった蕎麦屋が供する蕎麦のこと。だから、江戸蕎麦派は“都市文化”に関心をもっている。
その前に、日本の都というのは、歴史的に藤原京、平城京、平安京、室町時代の京、徳川時代の江戸、明治維新後の東京を指す。
それでは、都市文化とはいったい何だろうか?
日本のそれは室町時代の京から始まった。それ以前、都には都市文化はなかった。宮家(天皇家)が政を行うだけの所であった。
それが室町時代になって初めて足利義満が“都市文化”というものを創った。
当時の地方の戦国大名たちの武力は都の足利氏より上であった。そこで義満は彼らになくて自分が得意としていた能、茶道、華道、料理、和歌などを芸術級にまで高め、これを嗜まない者を“田舎者”と蔑む戦略をとった。これが室町文化、足利文化と呼ばれるものである。司馬遼太郎が「わたしどもは室町の子」と言ったように、現在日本にも足利文化は脈々と生きている。
続く江戸も文化は花開いた。江戸料理(蕎麦、天麩羅、鰻、握り寿司・・・)、歌舞伎、俳諧、川柳、浮世絵などである。
ただし、京文化が公卿僧侶武士など上層階級の人たちのものであったのに対し、江戸文化は町民たちが担っていた。この町人というのは、落語に出てくる熊さん、八っつあんや与太郎のような下級町人のことではなく、姓氏のある元武士の、教養も実力もある、大店の主人や名主などの上級町人、とくに江戸日本橋の町人たちであった。彼らと幕府は、ある意味対等、もしくは協力関係のうえに江戸の町を開発していったとみた方がいい。
それから明治維新後の江戸は東京となって、府知事由利公正が銀座に煉瓦造りの建築物を数多く建てたり、現在の銀座大通りをニューヨークやロンドンの大通り並みにしたりしたため、銀座は東京の看板としておおいに発展していった。
司馬遼太郎に倣えば、「わたしたちは室町の孫であり、江戸の子である」ということになる。さらにいえば都市文化とは日本文化のことであり、だからこそ都市文化が必要だということにある。
☆銀座フィルター
そんな風に都というものを見ているときにタイミングよく、小松庵銀座店の今日の「森の時間」で、佐野由美子講師が銀座の話をしてくれるという。「銀座ってこんなに素敵な所よ」という話らしい。
銀座といえば、目立つのはデパート、少し前に外国からの観光客が押し寄せたときデパートは大混雑し、コロナ禍でテパートが休店していたときは銀座から人が消えた。そのくらいのパワーが銀座のデパートにはあると思う。それに歌舞伎座もそうだろう。しかしゆっくり歩くと、ウィンドーショッピング、ギャラリーも楽しいし、じっくり見ればテイラーなど専門店も多い。そして食事処は「資生堂パーラー」をはじめ、「そば所よし田」、一流の寿司屋、天麩羅屋、老舗和菓子屋、古い珈琲店など有名店が並んでいる。さらには銀座の夜(参考:小説『神様のくれた満月 ~ 銀座の恋の物語 ~』)の顔もある。
佐野さんは銀座で食のお仕事に携われていたから、銀座に恋しているような眼差しで 「銀座はきれいな街でしょう、歩道が広いでしょう」とおっしゃる。
それはなぜか! これが佐野さんの話のポイントである。
まずハード的には、銀座全域を網羅する自治末端組織「全銀座会」(参考:「全銀座会」)が機能していることだろう。そしてソフト的には、「通りのことと業界のことは最優先にやりなさい」という考え方、つまり銀座という畠があって、商いの花が咲くいうわけである。そのうえに「奢らない、身の丈を知れ」「困ったときはお互さま」ということを教えられたという。
このハードとソフトが機能すれば、たとえば客引きをやっている新参者がいたら直ぐに注意するのはもちろんにことだけれど、決して威圧的強制的態度はとらない。あくまでも話し合って、分かってもらうように臨むらしい。当然、他の街にもそのようなハードもソフトもあるだろう。しかし銀座では、「銀座フィルター」と呼ぶ、粋な銀座文化(都市文化)あるのように見受けられた。
こうした江戸時代の大商人の町づくり、戦後復興や関東大震災後の復興時(参考:《万太郎好み》)、そして「銀座フィルター」に見られる自治力こそが世界都市になれる条件であると思う。
《参考》
①ほしひかる作『神様のくれた満月 ~ 銀座の恋の物語 ~』
駄作ではありますが、もしこの小説を見てみたいという方がいらっしゃいましたら、PDFにしましたので、ご用命ください。
②全銀座会組織図
https://www.ginza-machidukuri.jp/about/img/zenginzakai_soshiki.pdf
③第467話 《万太郎好み》~ 世界都市東京へ ~
第467話 《万太郎好み》 - ほしひかるの蕎麦談義 - フードボイス (fv1.jp)
④『新・みんなの蕎麦文化入門~お江戸育ちの日本蕎麦~』
(株)アグネ承風社 agne-shofu@apost.plala.or.jp
〔江戸ソバリエ認定委員長 ほし☆ひかる