第828話 今年はソバリエ20年目
2023/01/05
(そして、小説から読み解く和食文化)
明けましておめでとうございます。
新年にあたりまして、まずは皆様方のますますのご健祥とご活躍を心からご祈念申上げます。
当協会も、皆様と協力し合って、蕎麦の新しい世界を建設していける一年でありたいと願っております。 何卒よろしくお願いいたします。
ところで、2003年に立ち上げました江戸ソバリエ認定事業は、今年の2023年で20年目を迎えます。
この間、国内はもちろん、仲間と一緒にアメリカ、中国など海外においても日本の蕎麦文化の普及活動に携わることがありました。
その度に痛感することが、蕎麦はむろんのこと和食の独自性です。
その詳細をここで述べることは控えますが、たまたま読んだ日本贔屓の人類学者レヴィ=ストロースに『月の裏側 日本文化への視覚』というのがありました。彼は日本のことを「月の裏側」と表現していましたが、この言葉には、理解しがたい日本だけどそれゆえに魅力的だという彼なりの愛情と期待がこめられていました。 そこで私も和食の何が理解しがたく、どこが魅力的なのかを探ってみようと思いました。しかし和食のみならず食についての書は、理科系、文科系を問わず数多く目にします。キリがないくらいです。そのうちの理科系の本は化学的であるため、たとえば美味しさの仕組みは分かりますが、美味しさを感じるところが少ないようです。また文科系のものは作者の個人的な思いが主体のようでした。
そこで、今まで自分が読んでいた小説などの感想を自分なりにまとめてみようと思い立ちました。さっそくながら、群ようこから森下典子まで100冊を越える小説、童話、エッセイを読み解き、和食の特質解明を試みてみました。
そのなかで一番響いた言葉がS・W・ポージェスの「我感じる、ゆえに我在り」でした。つまり食べ物の美味しさでいえば、「我考える、ゆえに我在り」とは違う世界もあるというわけです。
それゆえに小説を材料にしてよかったと思いましたが、鈍感な小生にとってはかなり難問でした。それでも書きすすめてまいりましたが、「感じる=感性」ということに注視したせいか、女性作家の作品が大きな鍵となっていることに気づきました。そういえば、女性が料理する、男性はそれを食べると仮定した場合、「女性は庖丁で切っているときから、切れ具合の感触で、音で、匂いで美味しさを感じているが、男はそれを口に入りたときしか美味しさが分らない」といわれています。そういう意味では、男の私がうまく課題を解明できたとはいえません。
ただこの先も、食ならびに社会において、ますます「我感じる、ゆえに我在り」ということが基軸となれば、さらに女性の活躍が期待されるのではないでしょうか。
これが執筆後の感想となりましたが、本の方もおかげさまで何とか出版まで漕ぎ付けることができました。皆様のご意見を賜れば幸いに存じます。
・ほしひかる著『小説から読み解く和食文化 ~ 月の裏側の美味しさの秘密』
・1月15日から新発売
・お問い合わせ:アグネ承風社 agne-shofu@apost.plala.or.jp
〔江戸ソバリエ協会 ほし☆ひかる〕
イラストほしひかる:今年の干支-卯