第890話 美味の基礎 [ヰ]

      2024/03/24  

 友人の三紀さんのお誘いで味覚の勉強会に参加した。参加者は写真の通りの5名と、味と香り戦略研究所の高橋講師である。
 私は『小説から読み解く和食文化』でも述べているように、味覚関係の、食べ比べや審査では、参加者の全体像を明らかにした方がよいと考えている。といっても難しいことではない。性差・年齢差・地域差・体験差があるかもしれないから、性別・年齢・出身地・経歴などを明らかにすればよいだけである。
 そういうことで、今日の5名の参加者は男性1名・女性4名、年齢は見たところ30歳代が一番若く、私が最高齢である。出身地は沖縄2名、九州北部2名、四国1名。全員既婚者。そして資格はフードアナリスト・ソムリエ・チーズプロフェッショナル・江戸ソバリエなど食の専門家というのが5名の像である。
 勉強会は10時から15時30分までであった。

☆美味の構造
 これは多くの教材に記載されているが、基本中の基本だから先ずは美味の構造を頭に入れておこう。
Ⅰ.味覚(五味または七味)
Ⅱ.風味=味覚∔臭覚
Ⅲ.食味=風味∔触覚∔視覚∔聴覚
Ⅳ.美味=食味∔α

☆嗜好の段階
 実験❶味識別テストでは、ほんの微かな濃度の五味を識別した。
 その結果、私は甘味・旨味・鹹味は識別できたが、酸味・苦味は識別できなかった。
 他の皆さんはわからないがたぶん似たような傾向かと思う。ただ三紀さんだけは全部識別できた。さらに言うと、彼女の舌はこの日すべての識別が正解だった。つまり彼女はいわゆる「スーパーテイスター」だということをこの日初めて知った。エール大学のリンダ・バートシュックの調査では、アメリカ人の25%がスーパーテイスターであるという。今日は5人中彼女1人がそうであるから、まさに「25%」の人だったわけである。
 それはさておき、この実験は、私という人間の味覚はどうなっているのか?を考えることが重要であると思う。
 1)甘味・旨味・鹹味に敏感な私は、この三味が好きなのだろうか?
  答えとしては、すくなくとも苦手ではない。しかし考えてみると日本人はだいたいそうではないだろうか。(とくに鹹味は日本人に多いのではないかと個人的には思っている。)
 2)酸味・苦味を識別できなかった私は、この二味に対してどうなのだろうか?
 この答えは難しい。なぜなら私は酸味に敏感だが嫌いではないし、苦味に鈍感だけれどとくに好きではない。ということで、どう考えてよいか分からないのである。そこで参考になるのが、下記の【嗜好の段階】である。

     [原始的]
            
 Ⅰ.安全の確保(味覚・嗅覚による食の安全な性判断)
  Ⅱ.生理的欲求による嗜好(甘味:エネルギー源、鹹味:ほどよいミネラル、旨味:アミノ酸、蛋白質、脂質)
  Ⅲ.経験学習による嗜好(酸味・苦味・渋味・辛味・アルコールなど)
  Ⅳ.情報(栄養表示、賞味期限など)
   高栄養・やみつきによる
     
   [現代的]

これを見ると、Ⅱで安堵し、 Ⅲをどうしたらよいだろうかと迷うところである。しかし落ち着いて考えれば、幾つかの道が示されていることに気付く。
 1)今のままでよい。
 2)Ⅱの自分を大切にする。
 3)Ⅲの未経験とどう取り組むべきか。
 ということになるのだろうか。
 たぶん2)を優先し、余裕があったら3)を考えなさいということたろう。
                      [続]

ほし☆ひかる
江戸ソバリエ協会 理事長
農水省 和食文化継承リーダー