第857話 今、もっとも贅沢な
2023/09/18
~ 料理の秘密 ~
龍谷大学「食の嗜好研究センター」と日本料理アカデミー・日本料理ラボラトリー研究会によるシンポジウム「今、もっとも贅沢な京料理」が後楽園ドームホテルで開催された。何人かのソバリエさんの顔も見られたが、ほんとうにみんな勉強されている。
このシンポジウムは定期的に開かれているが、研究目的は、「伝統を守り続けるためには、少しずつ変化させなければならない。では残すべき型とは?」ということだという。
毎回、一流の料理人と、龍谷大学の教授らの座長によって、京料理が紹介されるが、今回もまた豪華な料理人が勢揃いした。
その店と、料理人と、料理は次のとおり。
1.「菊乃井」村田吉弘 《小川唐墨》
2.「直心房 さいき」才木充 《擬製豆腐》
3.「大和学園」宗川裕志 《蓮根のいとこ煮 4.「たん熊北店」栗栖正博 《鴨饅頭》
5.「平等院表参道 竹林」下口英樹 《鰻の松皮豆腐》
6.「京料理 木乃婦」髙橋拓児 《お赤飯》 7.「京料理 清和荘」竹中徹男 《子持鮎りゅうひ昆布巻》
8.「竹茂楼」佐竹洋治 《鰻の炊いたん》
9.「一子相伝 なかむら」中村元計 《おから》
今日のテーマは普通の食材で贅沢な料理、ハレの料理を作るということだった。
このうちの「いとこ煮」というのは、硬い食材から、おいおい(甥)に、めいめい(姪)に煮るから「いとこ」煮、のしゃれだ。
「りゅうひ昆布巻」は、昆布を蒸して甘酢や砂糖を塗って味付けし、何度も風を通して乾燥させる。手間がかかるから大変希少な昆布だ。
「炊いたん」は、出汁や醤油、酒、砂糖などの調味料で食材を炊くこと。ソバリエはつゆの作り方で見慣れているような気がする。
京料理のなかでは、ソバリエとして馴染みの「鴨」が食材の《鴨饅頭》に魅かれた。じゃが芋などを裏漉して、それで鴨と鶉のミンチを包む。決め手は橘屋のおかきだという。《鴨なん》好きの贔屓かもしれないが、これは美味しかった。
というか、テーマが「普通の食材で贅沢な料理」というだけあって、おからから赤飯まで全て美味しかった。そういえば、いま話題のテレビドラマ『VIVANT』に登場していたお赤飯はよくできていたとシンポジウムのなかで好評だったが、『VIVANT』の最後がソバリエゆかりの神田神社で幕となったところも重要なのだが、それはソハリエ限定の話ということになる。
それはともかく、座長や料理人は、マジシャンの種明かしのように、美味しさの秘密を紹介しようというわけだが、皆さんがおっしゃる事には共通の〝種〟があった。
すなわち❶道具が大切、❷良い食材を選ぶ、❸手間と時間をかける、に尽きるかもしれない。
道具というのは、たとえば効率的なフードプロセッサーより、手間のかかる裏漉しの方が断然触感が良い。洋庖丁より、和庖丁の方が切り口が美しい。良い食材とは、食材自体が手間をかけて丁寧につくられた物がその料理を美味しくする。だから橘屋のおかきだとか、あの店の豆腐だとか、特定の店の名前が料理人の口から出るのである。
お話をうかがって、京料理の伝統の深さと長さには及ばないかもしれないが、江戸蕎麦にも美味しさの〝種〟があると思った。
蕎麦打ち道具は、延し台、延し棒、蕎麦切庖丁、駒板などは工夫して生まれた。
蕎麦打ちは、水回しに時間をかけ、水洗いなどの丁寧さは失っていない。
蕎麦粉においては二八という黄金比を見出し、出汁は本枯節にこだわっているではないか。
やはり、江戸蕎麦シンポジウムを行い、江戸蕎麦の贅沢の〝種〟をご披露すべきかもしれない。
そのためには、座長として江戸蕎麦に通じた学者の登板が待ちきれない・・・。
〔江戸ソバリエ協会 ほし☆ひかる〕