第883話 第25回更科堀井の会

      2024/02/20  

☆更科蕎麦 
 第25回目の更科堀井の会を開いた。
 当協会は、江戸蕎麦の代表の一つといえる更科蕎麦を中心にして、江戸地産の江戸東京野菜を材とした「更科蕎麦と江戸野菜を味わう」会を継続して開催している。
 献立レシピは料理研究家の林幸子先生(江戸ソバリエ協会理事・アトリエグー主宰)、料理は更科堀井の総料理長の河合様と厨房の皆様、会場は総本家更科堀井、主催として江戸ソバリエ協会と江戸東京野菜コンシェルジュ協会で行っている。

 今回の御献立は、いつものように今まで食べたことのないものばかり。
 一、千住葱のまるごとスープ 蕎麦掻浮き実
 一、独活とサーモンの奥多摩山葵漬和え
 一、小松菜切の蛤冷掛け
 一、亀戸大根の牡蠣かき揚げ
 一、蔓菜と幸海老の巾着黄金焼き
 一、揚げ千住葱盛 豚シャブ蕎麦
 一、甘夏羹

 なかでも、《小松菜切の蛤冷掛け》《揚げ千住葱盛 豚シャブ蕎麦》は感動ものだった。ただしソバリエの立場でのことと、かつ個人的感想であることはお断りしておく。
 《小松菜切の蛤冷掛け》は、まさか蕎麦にクリームが合うとは思っていなかった。というよりか、更科蕎麦だから合うのかもしれない。江戸時代、更科蕎麦の工夫完成によって、色目のある蕎麦《変わり蕎麦》が可能になったのだから、さらに変化してクリームに合うことに納得しながら洒落た逸品を味わうことができた。
 《揚げ千住葱盛 豚シャブ蕎麦》は、一口目は揚げ千住葱の油分によってラーメンみたいな味がすると思った。けれど、違う。つゆがやはり蕎麦つゆだし、麺が細切りだから、ラーメンより粋な逸品振りが味わえた。
 《千住葱のまるごとスープ 蕎麦掻浮き実》は、千住葱擂り流し(スープ)の、あのとろ味が葱のとろ味を活かしたものとは驚き。素材を知り尽くした林先生ならではと思う。
 《独活とサーモンの奥多摩山葵漬和え》、堀井社長推薦の絶品霧島サーモン、それに奥多摩山葵漬がよく合うと申上げないと、本日ご参加の日本わさび協会代表理事で江戸ソバリエの金子美愛さまに叱られてまう。
 《亀戸大根の牡蠣かき揚げ》、大根の掻揚げとはと驚くが、亀戸大根は水分が少ないから可能だというから理に適っている。これも食材を知り尽くした先生ならではの料理である。牡蠣は更科堀井さんで使われている松島産。
 ここで「牡蠣のかき揚げ」し洒落てみたけど、たいていの方が「ダジャレは昭和」と馬鹿にしてしまう。だけれども洒落と粋は紙一重、江戸の滑稽文学もこれが柱、遡れば古典の『古事記』も『今昔物語』も滑稽文学なんですね。
 《蔓菜と幸海老の巾着黄金焼き》、たいていの料理は見たらあるていど作り方が想像できる。だけれども、こればかりは「何じゃコレ、ミステリー」だけど珍味だった。

 ところで、もうすぐ春だが、来たる3月4日は「更科そばの日」として日本記念日協会で認定登録されている。
 だから、江戸蕎麦の代表でもある真っ白い更科蕎麦を老舗の「更科堀井」で食べていただきたい。繰り返すが、この更科蕎麦が工夫されたからこそ、白(更科)赤(海老切)緑(茶蕎麦)が誕生し、やがては多種の《変わり蕎麦》へと発展していった。
 また、3月4日の《雛蕎麦》の始まりは、江戸の商家で雛人形を仕舞う3月4日に、菱餅の色に倣って色のついた蕎麦を食したことに由来する。それを思いながら《更科蕎麦》を啜ってほしいと思う。 

☆日本の柑橘類。
 締めの《甘夏羹》には練馬産。
 果実は和食の甘味として好位置にあると思う。
 これまでも令和三年冬の会では《東京蜜柑の好事福蘆》、平成二十九年春の会では《千住葱と夏柑のコンポート》を先生は提供してくれたが、とくに柑橘類は日本の果実のなかの首坐にあるとしても過言ではない。
 かつて、和食文化国民会議の知人ミチさんから、「柑橘類の来歴」(佐賀大学の岩政正男先生の資料をもとに作成)を見せていただいたが、それによると日本の柑橘類の祖は、橘、橙、小蜜柑、枳殻あたりのようだ。そういえば古代の日本武尊の愛妻は弟橘姫という名前だったし、古代遺跡の多い対馬で橘の原木を観たことがある。そして甘夏の祖である夏蜜柑は江戸初期~中期に登場しているから日本人と柑橘類の付き合いは古い。
 それに、伝統的江戸蕎麦には《柚子切》という変わり蕎麦がある。これも更科蕎麦という白い蕎麦があって可能な逸品である。また最近の《酢橘蕎麦》は夏の定番になっているし、つづいて《へべす蕎麦》《かぼす蕎麦》も登場した。これらは海外のレモンより優しい酸味だから和して美味しい。
 総じて日本の柑橘類は日本人のように優しくて和であると思っているから、これからも期待したいところである。

 最後になりましたが、林先生の御献立を美味しい料理に仕上げた河合料理長ならびに厨房の皆様にあらためて感謝申上げます。

江戸ソバリエ協会理事長
農水省 和食文化継承リーダー
ほし☆ひかる