東工大「哺乳類の手足再生実現へ研究進む」
執筆者:編集部
東京工業大学生命理工学院の柴田恵里大学院生と川上厚志准教授らの研究グルーは、小型熱帯魚のゼブラフィッシュのヒレをモデルとした再生メカニズムの研究から、組織再生におけるFgf の働きには、再生芽を誘導する上皮Fgf と、細胞増殖を活性化する再生芽Fgf の2 つがあり、これらが協調することで、組織再生が進むことを解明した。組織再生にFgf シグナルが必要なことは知られていたが、どのような役割を果たしているのか不明であった。本研究は20以上あるFgf のうち、再生初期に上皮に発現するFgf20aが間充織細胞を再生芽へと誘導し、次に、再生芽が形成されると、Fgf3 などの再生芽Fgf が細胞増殖を活性化することを解明した。この成果は、ほ乳類の手足再生を実現するための重要な手がかりとなることが期待される。研究成果は、英国の生命科学誌「ディベロップメント(Development)」のオンライン版に2016年7月5日に公開された。私たちほ乳類は事故などで失った手足などの器官を再生することはできないが、一部の両生類や魚類は、四肢やヒレを失っても元通りに再生することが200年以上も前から知られてきた。しかし、ごく最近まで、組織が再生するメカニズムについての研究は進んでいなかった。近年、分子生物学的な解析が飛躍的に発展し、組織再生にかかわる分子やシグナルが明らかにされてきた。Fgf シグナルも再生に必要なシグナルであることが示されていたが、Fgf シグナルがどのような役割を果たすことで再生が進むのか不明であった。本研究の結果、傷ついた上皮でのFgf20a の活性化が、再生芽を誘導するカギであることが明らかになった。上皮から始まり細胞増殖に至るFgf の2段階の作用が、魚類などで組織再生を可能にしている重要なメカニズムの1つと考えられる。Fgf20 もFgf3 もすべての脊椎動物種に存在している。どのようにして傷ついた上皮がFgf20a 活性化を起こすのか?細胞増殖から、形態や機能の再生へと至る仕組みは?これらを解明していくことで、ヒトをはじめとするほ乳類での手足再生も現実的となることが期待される。