第745話 食楽散歩
「新・江戸蕎麦ごちそう帳」の打ち合わせのために、料理研究家の林幸子先生(江戸ソバリエ講師)とよくお会いする。
今朝は9時から「更科堀井」で打ち合わせ会。そのためには8時台に電車に乗らなければならないが、混んでいるのが嫌だから早めに家を出る。
麻布十番に着いたら上島珈琲で《モーニング・トースト》を食べてから、「更科堀井」さんへ行くことにしている。
《モーニング・トースト》というのは、あの焼けたトーストの香りに誘われて、ときどき食べたくなるところがある。
麻布十番には美味しい「更科堀井」や「HANAKO」などあるけれど、朝だけはトーストの焼けた香り、バターの匂いのする街でもある。
打ち合わせで立川に行ったときは、「チーズ王国」によるのが定番になった。
何しろこの店には「チーズ・オブ・コムラード」の試験を受けたときのテキストに掲載されていたチーズのほとんどがある。
すなわち、ヨーロッパ各国の、①フレッシュタイプ、②白カビタイプ、③青カビタイプ、④ウォッシュタイプ、⑤シェーブルタイプ、⑥セミハード、ハードタイプである。訪ねる度にそれを順々に求めるが、林先生は1万円ちかくも買い求めておられる。さすがは料理研究家だ。
立川には美味しい「更科堀井 立川店」や「無庵」などあるけれど、私にとっては《チーズ》の街でもある。
今日は日本橋人形町。林先生と甘味処の老舗「初音」に入った。以前に「神田まつや」さんに行った後、林先生と「甘味処 竹むら」に寄ろうとしたところ休みだったこともあったことを思い出した。だからというわけでもないが、とにかく《おしる粉》を食べたのはずっと昔のことである。
餡類の食べ物を目の前にすると、だいたい《漉し餡》派か、《粒餡》派かの話になるが、こうした分類は食べ物文化を発展させる第一歩でもあると思う。
蕎麦でいえば、《温かい掛け蕎麦》か、《冷たいざる蕎麦》かが、それである。
人形町には新しい店である「蕎ノ字」があるけれど、何と言っても老舗が似合う街でもある。
今日は更科堀井」の堀井社長と林先生とで「神田まつや」を訪れた。打ち合わせた後、「せっかくだから」と少しのお酒とお摘まみとお蕎麦を頂いた。
林先生は《玉子焼》をいつも欠かさない。私は《温かいおかめ蕎麦》を頂いた。わざわざ“温かい”と書いたのは、夏に《冷たいおかめ蕎麦》を食べたことがあるからだ。
食べ物は《温かい》か、《冷たい》かは大問題である。
蕎麦でいえば、温かい《鴨なん》が好きか、冷たい《鴨せいろ》が好きか?ということもある。
しかし《鴨せいろ》はお蕎麦は冷たいけれど鴨汁は温かい。これを「嫌だ」と言う人もいるらしく、ある店は冷たい蕎麦と冷たい鴨汁で供してくれる。「これでいい」と言う人もいるが、「(鴨の)油味は冷たい汁だと美味しくない」と言って、また温かい鴨汁に戻る人もいる。
そこで私は、温かい鴨汁に湯通した蕎麦切を笊に盛ってみた。
うん、いける♫
大発見かもしれない。これも食楽散歩のお蔭だ。
〔エッセイスト ほし☆ひかる〕