第865話 和食の美味基準
~ 味と香りの研究 ~
友人の三紀さんのお誘いで「炊飯の官能テスト会」に参加した。
着席すると、用紙に性別と年齢を記すようになっている。
評価者のプロフィールというのは絶対必要だ。
人間はすべて同権であるから、性、年齢などによる差別は許されないが、身体的差は必ずある。病でも、男性特有の病、女性特有の病があり、薬剤の効き方ですら、男女年齢別で差が出ることもある。とうぜん味覚もちがってくる。私は食味テストの場合、加えて当人の生育地差も考慮した方がよいと拙著で述べたことがある。
さて、本日のテストは、6種の炊飯の外観、香り、味、粘り、硬さをチェックするというものだった。
1.外観は、光沢とか白さだろう。(視覚:物理的)
2.香りは、ご飯特有のあの匂いだろう。(臭覚:化学的)
3.味は、ご飯の旨味、甘味だろう。(味覚:化学的)
4.粘りは、粘り具合。(触覚:物理的)
5.硬さは、硬さ具合。(触覚)
ところで、
1.の外観は6個全てを一目で観て判断できる。
2.の香りもほぼ一回でチェックすることができる。
しかし、3.の味覚と、4.5.の触覚の判断はなかなか難しい。なぜかというと、1.2.は全てを一度に判断できるが、3.の味覚と、4.5.の触覚は一つずつ口に入れて比較しなければならない。そうすると六番目に至る頃には一番目の感覚記憶は薄れている。
この現実が、視覚、臭覚より、味覚、触覚の判断が難しいところであると思う。
それにしても、美味しさの判断としては味覚だけでよいと思うのに、粘り・硬さという触覚が炊飯には大事だという事実も面白いと思う。
というのは、私たちが主体としている蕎麦の美味しさの第一要素がまさに〝腰〟や〝喉越し〟という触感にあるところが面白い。
もしかしたら、「飯主麺従」の日本人の美味感は飯によって確立し、麺の美味感が育成されたのではないだろうかと思う。
ところで、このご飯の硬さ・粘りという美味基準を日本人はいつごろ獲得したのだろうか。それを考えるとき、糯米、粳米の問題がある。一説によると、古代日本人は糯米を食していたが、奈良・平安のころ粳米に替わったというが、それを証明する論はまだない。
ただ、個人的には「米」の読み方の変化にあると見ている。
どういうことかというと、「米」は一般的に「コメ」と訓む。しかし姓名あるいは地名のときは米山・米村・米原・・・という具合にほとんど「ヨネ」と訓む。そして姓名地名は古い。よって「米」は古くは「ヨネ」と言い、「コメ」と言うようになったのはその後のことではないかと想像する。このことと糯米・粳米の交替を重ねることができるとすれば、糯米時代には「ヨネ」と言い、粳米時代になると「コメ」と言うようになり、粳米の触覚がわれわれ日本人に大きな影響を与えたという小生の珍説である。
そんなことを考えながらテストを終了し、失礼した。
今日お世話になった三紀さんとは2日後に、別のある会でお会いできるから、そのときゆっくりお話ができるから・・・。
《参考》
評価者のプロフィールについて述べた拙著:
ほしひかる『小説から読み解く和食文化』(アグネ承風社)
江戸ソバリエ協会 理事長
和食文化継承リーダー
ほし☆ひかる