第599話 世界は美味しいものにあふれている

     

更科堀井の会だより

17回目の更科堀井の会が開催された。今回は秋の江戸東京野菜を使って、林先生と河合料理長が腕を振るった。
その内容は次のようなものだが、そもそも献立というのは、正式な宴会(和食)ほど漢字で記するのが慣習らしい。過日催された【平成饗宴の儀】での献立もそうだった。
それに倣うのは畏れ多いとも思うが、当会の献立もできるだけ漢字で表記するようにしている。
一 滝野川と馬込の味比べ
一 内藤南瓜と蕎麦搔の重ね
一 品川蕪と豚バラの重ね蒸し
一 馬込三寸人参梅冷掛け
一 三河島菜と忍び穴子の掻揚げ
一 内藤唐辛子切り
一 禅寺丸柿のパイ

会の後に、ソバリエさんにお会いしたり、メールなどで「美味しかった料理は?」とお尋ねしてみたら、皆さんは「全部美味しかった」とおっしゃったり、幾つも示されたりした。
そこで、頂いた10名様の声の一番だけをまとめてみると、クリーミーな《内藤南瓜と蕎麦搔》がリードしていた。
一 内藤南瓜と蕎麦搔の重ね 4名様
一 馬込三寸人参梅冷掛け 3名様
一 品川蕪と豚バラの重ね蒸し 2名様
なかには、「和食の会だけど、やはり現代では肉は強いと思う」というのがあったが、なるほどと頷ける。

ところで、今回は辛味大根の《江戸城堀大根》と《禅寺丸柿》が初登場した。
江戸時代、蕎麦の薬味には、千住葱、奥多摩山葵、内藤唐辛子、川口産の辛味大根が使用されていた。うち、奥多摩山葵は栽培が続けられ、また千住葱と内藤唐辛子は復活されて使うことができるようになったが、辛味大根だけがない。そこで大竹先生に数年前から「江戸の辛味大根を探してほしい」とお願いしていたところ、皇居の堀の土手で見つかったとのことだったが、皇居では手が出ないという。それから一年後、皇居の土手のこちら側でみつかったということから、その種をJAの渡辺さんが育てられ、本日蘇ったというわけである。さっそく齧ると辛い! これまでの経過を思い返すとちょっと感動的だった。
加えて《禅寺丸柿》。川崎の柿生の里を通ると、各民家の庭に鈴なりになっているあの柿である。見るからに色形ともに不揃い野性を帯びている。切って食べると野趣味ある「昔の柿」である。
近頃のフルーツは見た目も美しく、口にしても甘くて最高に美味しい。とくに「デパート・フルーツ」は美しく上品である。しかし、たまには《禅寺丸柿》みたいなしっかりした「昔・果実」を食べたいものだ。
そういえば、先日まで中国南方の貴州省へ行っていた。
省都・貴陽市の露店にはトマトと見間違えるような柿が並んでいた。柿は柿色しかないと思っていたのにこの真っ赤な柿には驚いた。日本の柿色の柿と貴州の真っ赤な柿は種類が違うのだろうか?
それにしてもこの度の中国旅でもよく食べた。
そして彼の地ではデザートとして必ず西瓜が供される。他に、蜜柑や林檎を食べてみた。いずれも酸味があってしっかりした「昔・果実」であった。

話は逸れたが、更科堀井の会をふくめ、あちこち訪ねていると、世界は美味しいものにあふれているといつも思う。

〔文・挿絵(禅寺丸柿) ☆ 江戸ソバリエ協会 理事長 ほしひかる
写真:中国貴州省の露店で見た真っ赤な柿